No.9 生前贈与について

通帳と現金の画像

1贈与の意義

贈与の定義は、相続税法で定められているわけではありません。民法において「贈与」の定義がされているため、相続税法でもその贈与の考えをそのまま使うようになっています。

贈与の定義について、民法において次のように規定されています。

(民法549条)
「贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって、その効力を生ずる。」
つまり、贈与があったと言うためには、次の2つの条件を満たさなければなりません。

① 贈与側の「無償であげます」という意思表示

② 受贈側の「もらいます」という意思表示

この2つの要件が揃ってはじめて「贈与」という契約が成立するのです。そのため、一方的に「あげます」と言っても、もらう側が「もらいます」という意思表示をしなければ、又は贈与側が「あげます」と言っている事実を受贈側が知らなければ、贈与は成立しないことになるのです。

例えば、祖母が孫名義の預金口座を作って孫のために預金しているというケースがよくあると思います。この時、孫がこの預金口座の存在を知らなければ、祖母から孫への贈与は成立しません。なぜなら孫からの「もらいます」という意思表示がないからです。

税務当局は、相続税の補完税である贈与税における「贈与」について大変厳格に捉えています。祖母が孫のために預金口座を作り、その存在を知らせてあった場合でも、その預金口座の印鑑や通帳を祖母が保管し、その手続・運用が祖母の意思により行われ、孫はその預金を全く自由に使うことが出来ないのであれば、これは実質的に孫の預金ではなく、「孫の名前を借りた祖母の預金(名義預金)」ということになります。次の「2.贈与の立証」に おける「3.その後の管理・支配」が、真の実質的な所有者を決める重要な要件ということになります(特に支配が重要)。この問題は相続税の税務調査においてよく問題になるところですので、ご注意下さい。

将来、孫にあげるつもりで孫の名前で預金していても、預金の都度贈与が成立していなければ、将来、孫にまとめてあげた時点で、その総額が贈与額と認定され、多額の贈与税が課税される畏れがあります。

2.贈与の立証

※ 贈与の証拠を残すことが重要(税務署は贈与を簡単には認めない、立証・挙証責任は納税者側にある)
1.贈与・受贈の相互の意思の立証
2.贈与されたことの物証
3.その後の管理・支配の事実

お互いの預金通帳間で移動させるのは当然であるが、それだけではだめ(現金では証拠が残らないし、相互の贈与・受贈の意思の立証が大事)。下記を参考にして下さい。

① 贈与契約書を作成する(作成期日、氏名は自署、実印で押印、できたら確定日付を取るかまたは公正証書にする。口約束の贈与は税務署は認めない)。

② 贈与税の申告をする(暦年110万円以内にこだわらない)。

③ 贈与契約書どおりに実行する。

④ 贈与財産の管理・支配を受贈者が行う(特に「支配」が重要)。

贈与税の時効(7年)はなかなか認められない(税務署は贈与の成立を簡単には認めない、客観的な贈与の証拠を求められる)。
未成年者の場合、法定代理人(親権者・両親)が自署、押印する(利益相反関係にない)。「受贈すると」いうことが全く理解できない乳幼児であっても親権者の同意により贈与契約は成立します。親から子(未成年者)への贈与の場合、子の親権者と贈与者は同じ人ですが、贈与契約は成立します。

預金の場合、通帳(証書)、印鑑を受贈者に渡し、たまには受贈者がその預金を自分のために使う。金融機関には受贈者本人が行って手続きする。

財産の贈与とは、財産の所有権の移転を意味します。財産の所有権とは、財産の完全支配権を意味します。

3.こんなものも贈与税の課税対象になる「みなし贈与財産」とは

実際に財産を贈られていなくても、同等の経済的利益を受けたとき贈与があったものとみなされ、贈与税の課税対象になります。

① 保険料の負担者以外の人が保険金を受け取った場合(満期、解約、死亡)
保険料を負担している段階では贈与税の課税はおこらない。保険事故が発生した段階(満期、解約、死亡)で贈与税の課税の問題が発生する。保険料負担者と被保険者が同じで、被保険者が死亡したした場合は、その死亡保険金は相続税の課税対象となります。但し、死亡した被保険者以外の者がその保険料の一部を負担していた場合は、それに対応する死亡保険金は死亡した被保険者以外の保険料負担者からの贈与となり、贈与税の課税対象になります。

② 生命保険契約について契約者変更があった場合
保険事故が発生した場合(解約、満期)において、保険金受取人が負担していない保険料に対応する部分

③ 掛金の負担者以外の人が定期金(年金)の給付を受けた場合

④ 借金等の債務を免除してもらったり肩代わりしてもらった場合(自筆、実印の債権放棄通知書を作成、できれば公証役場で確定日付を取る)
※ 但し、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その債務者の扶養義務者により債務の引き受け又は弁済をしてもらったときは、その債務の弁済をすることが困難である部分については、贈与により取得したものとはみなされません。

⑤ 返済能力もないのに、親兄弟などからあるとき払いの催促なし(又は出世払い)で多額の借金をした場合
●金銭消費貸借契約書、借用書を作成する
・返済可能な計画をたてる
・賃貸人の年齢(寿命)を考えて返済期間を決める
・実際に契約書どうりに実行(返済)する

⑥ 著しく低い価額で財産を譲り受けた場合

⑦ 無利息または低利息貸付(免除された利息額が少額(贈与税の基礎控除110万円以下)ならば敢えて課税されていない)

⑧ 代金を支払わないでの財産の名義変更

⑨ 離婚による多すぎる財産分与

⑩ 住宅購入における購入資金負担割合と所有権登記持分割合が異なっている場合

⑪ アパート(建物)を贈与する場合、預り敷金(債務)も当然に引き継がれることになり負担付贈与に該当することになるので、同額の現金の贈与を同時に行い、負担付贈与ではなく、通常の贈与になる。

4.贈与税がかからない場合

① 扶養義務者から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合

「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は贈与税の課税価格に算入しない。(相続税法第21条の3)つまり、この規定に該当すれば、暦年贈与の非課税枠110万円とは別枠で、非課税です。これも年間110万円以内で抑えている方が多いようですが、誤りです。

上記①が贈与と見做されないポイント

1.通常必要とみとめられる金額

過度に高額かどうかは社会通念(常識)の問題なので個々に判断する。

国税庁の説明では「贈与を受けた者(被扶養者)の需要と贈与した者(扶養者)資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいいます」と言っていますが、非常に抽象的で分かりにくい表現です。

広く一般的に行われている常識的な金額の範囲ということと、受贈者が贈与を受けなければならない財政的必要性のことを言っているのでしょうか。自分で負担できる程の裕福な者への援助は贈与になる可能性があるということです。

2.必要な都度直接それらに充て、使い切る。預金等で残っている場合、そこではっきり贈与が成立していれば贈与税の対象となりますが、贈与が成立していなければ生活費等を負担した者の相続財産とみらる(預け金)。

孫の入学金、授業料等は、祖父母が息子夫婦または孫の預金通帳にその金額を振り込むのではなく、祖父母が自分の預金通帳から同額を引き出し、直接振り込むこと(孫等の預金口座に振り込むと、贈与と教育費等の負担との関係が不明瞭になる畏れがある。なるべく教育費とその資金を紐付きにする。)その請求書、領収書はその資金を負担した祖父母等が保管する。

奥さんがご主人から貰った生活費を節約して、長年かかって貯めた「へそくり」は通常、夫の相続財産となり、相続税の対象となる。但し、残った生活費について明確に贈与が成立していれば、相続財産と見做されない。

3.「扶養義務者」とは配偶者及び民法上は直系血族及び兄弟姉妹を指しますが、税法上は三親等内の親族で生計を一にする者と考えられる。

同居が条件ではなく、生活費を渡している行為をもって「生計を一」にしているようになる。

同居している祖父母に一家の生活費・教育費を全額負担してもらっても贈与とはならないことになる。但し、相続税の調査の際に預貯金が相対的に少ない旨の指摘を受けやすいので、これまで祖父母が、一家の生活費等の負担をしてきたことについて、預金通帳、家計簿等により具体的に説明できることが重要となる。

4.生活費等の名目で貰っても、その分財産(特に名義のあるようなもの)が増えていると贈与と見做されやすい。

5.通常必要な生活費の範囲を巡っては判断に迷う問題もある。例えば通勤用とか、日常の買い物に必要な自動車は生活費に入り、それ以外の遊び用(ドライブが趣味等)の自動車は生活費に入らない。また、固定資産税等の税金は、納税義務者が納付すべきものであり、他人の税金は生活費の範囲には入らず、他人の税金を納付した場合、贈与税の対象になります。

6.息子夫婦にかなりの資力がある場合でも、祖父母が息子夫婦、孫の生活費等を負担しても贈与税の課税はされないと考えられる。扶養義務に優先順位はない(但しこれに対しては、「非課税とならず、贈与となる」という専門家の意見もある)。

5.贈与税の特例規定

①   相続時精算課税

② 夫婦(婚姻期間20年以上)の間で居住用の不動産を贈与した時の配偶者控除

③ 住宅取得資金等の贈与税の非課税

④ 教育資金の一括贈与

⑤ 結婚・子育て資金の一括贈与

⑥ 20歳以上の子や孫に贈与する時の特例税率

以上

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